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仙台高等裁判所 昭和32年(ラ)89号 決定

抗告人 武田初美

相手方 川口八十八 外一名

主文

本件抗告を棄却する

理由

本件抗告の趣旨並びに理由は別紙記載のとおりである。

よつて案ずるに疎甲第五号証と第七号証によると原裁判所が唐橋幸作(申請人)と抗告人(被申請人)間の同庁昭和三二年(ヨ)第七二号仮処分申請事件につき、同年九月九日「被申請人は申請人が会津若松市栄町字本三ノ丁四五七番地所在会津厚生舎(組合)内に入つて同厚生舎の牛乳処理兼販売事業の常務を執行すること並びにその業務及び組合財産の状況を検査することを妨害してはならない。被申請人は申請人に対し会津厚生舎の業務に関する諸帳簿を閲覧させ且つ純利益の分配に関する事務処理をしなければならない。申請人の印鑑証明書添付の委任状を所持する代理人は会津厚生舎の業務に関する諸帳簿を閲覧することができる。」との仮処分決定(以下前記仮処分決定という)をなし、現にそれが執行中であることが認められる。これに対し抗告人が本件仮処分申請の理由とするところは相手方両名が右唐橋の代理人と称して前記会津厚生舎に現れ、前記仮処分決定のとおり帳簿その他の書類を見せよ、常務を執らせよ、利益の配分をせよと迫り、同仮処分に名を藉りその趣旨を越えた権限外のことを無理に要求し、もつて抗告人の右会津厚生舎の業務執行権を妨害する挙に出ているから、その妨害排除のため相手方等が右会津厚生舎の牛乳処理場、事務室等に立ち入り抗告人の会津厚生舎の牛乳処理販売に関する業務の執行を妨害することの禁止を求めるというのである。ところで前記仮処分決定の内容を見るとそれは右唐橋が右会津厚生舎の牛乳処理兼販売業務の執行権及び業務財産状況の検査権(以下業務執行権等と略称する)を一応有していることを前提とし、唐橋の右権限の行使を抗告人が妨害することを禁止したものと認められる。一方本件仮処分申請は右唐橋の代理人と称する相手方両名に対するものであることは前述のとおりであるが、疎甲第六号証の一、二によれば相手方両名が前記仮処分決定に基く唐橋の右会津厚生舎の業務執行権等を同人より委任された代理人であることを認め得るとすれば、右業務執行等は必しも代理に親しまない性質のものではないし、また前記仮処分決定には特に代理人による業務執行等を禁止することの定めもない(右仮処分命令の末項に諸帳簿の閲覧につき代理人により得ることの定めがあるけれども、それだからといつてそれ以外の業務執行等について代理人を選任することを禁止した趣旨のものとは考えられない。)のであるから、右唐橋が相手方両名を代理人として右業務執行等をなさしめたとしてもなんら前記仮処分決定の趣旨に悖るところはないわけである。そうすると右唐橋は相手方両名のする業務執行等についてはその本人であり、従つて相手方等が右会津厚生舎の牛乳処理場、事務室等に立ちいつて業務等を執ることから排除しようとすることは実質において唐橋の前記仮処分決定に基く前記常務執行権等による行為を排除することと同一に帰するというベきである。かく考えるならば本件仮処分の申請は結局において抗告人に対する前記仮処分決定の執行の一部を除却しようとするものであるといわなければならないから、この点において不適法であり、却下を免れないものである。抗告人は相手方両名の前記のような行為は前記仮処分決定の趣旨を越えている旨主張するけれども、右行為自体が右仮処分決定の趣旨を逸脱しているとは認められないし、疎甲第七号証だけではこの主張を維持する資料となすに足りない。(尤も疎甲第一号証の一ないし三、第二ないし四号証の各一、二によると、右会津厚生舎の業務執行権は抗告人一人に属し、右唐橋は組合員としての業務財産状況の検査権のみを有するに過ぎないものであることが窺われ、従つて前記仮処分決定の内容がこの実体に副わない疑があり、そのため抗告人において本件仮処分を申請せざるを得ないはめに立ち至つた観がないではないけれども、たとえ先に発せられた仮処分決定が実体に副わないものであるにせよ、それが国家の公権的判断(裁判)である以上それをそのままにしてこれに牴触する裁判を求めることは許されないものといわなければならない。抗告人において若し本件のような仮処分を得たいのであれば実体に副わない、しかも本件仮処分の趣旨に牴触する前記仮処分決定の取消を求めその効力を排除したうえでこれを求めるべきである。)以上の次第で本件抗告は理由がない。

よつて民事訴訟法第四一四条、第三八四条に従い、主文のとおり決定する。

(裁判官 板垣市太郎 上野正秋 兼築義春)

別紙

抗告の趣旨

原決定を取消し相当の裁判あらんことを求める。

抗告の理由

原決定は本件申請に対し同裁判所がさきに発した申請人唐橋幸作被申請人武田初美間の昭和三十二年(ヨ)第七二号仮処分決定を抵触するとの理由を以て申請却下の決定をした。

しかしながら本件申請は右仮処分決定と当事者を異にし形式的に何等扞格する所なきのみならず実質的に見るも本件申請理由に明かな通り、豪も右仮処分決定の効力を排除せんとするものではなく唯右仮処分決定主文第三項に基き右唐橋の代理人と称する被申請人両名が不当の目的を達するため、その権限を超えて右決定主文第一、二項の趣旨を実現しようと種々難題を持出し以て申請人の業務執行を妨害することを排除するにあり被申請人両名が右決定第三項により唐橋の代理人として帳簿閲覧の要求をする限りは一応適法であるがこれを越えて不当の要求に出る以上全体において不法性を帯びるに至るを以てその不法な行為を防止しようとするに外ならない。

被申請人両名は申請理由にも明かなように従来申請人と唐橋幸作佐久間伍一郎の諸種の訴訟に介在して右同人等を陰に陽に応援し、証人として虚偽な供述をしている人物であり(追加疏明疏甲第八号証の一、二)殊に佐原庄八は右紛争の黒幕にあつて指導者的役割を果しつつあり、前記仮処分決定に基き唐橋の代理人であるとして本件係争の会津厚生舎の業務を奪取しようと画策しているものであつてその野望を破砕するため本件仮処分申請は必要欠くべからざるものであり、原決定が本件申請を前記仮処分決定に抵触すると云い乍らすでに申請人より右唐橋幸作及佐久間伍一郎に対し発せられ現に効力を有する同裁判所昭和二十八年(ヨ)第七七号仮処分決定及佐久間伍一郎に対する昭和二十八年(ヨ)第一〇〇号仮処分決定(疏甲第二号証の一乃至甲第四号証の二)の趣旨に抵触する前記仮処分決定を発したことは自己矛盾の甚しきものと云うの外なく結局原決定は不当の理由を以て本件申請を却下したものと云うべくよつて原決定取消の上相当の裁判を求めるために本抗告に及んだ次第である。

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